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近ごろは映画館に足を運ぶ機会もめっきり少なくなりました。
  






アカデミー賞10部門にノミネートされた事でも話題を集めた

『マッドマックス 怒りのデスロード』

すっかり出遅れてしまった私は今年に入ってからようやくリバイバル上映で観ました。

いや最高。マッドマックス最高。

ド派手なアクションを生かすためにストーリーも無駄が無く、

伝えたい事は極めてストレートにぶつけてくれます。

2015年のベストワンに選出しても誰も文句は言わないでしょう。

ついでに『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の何とも言葉に表せない

「おもしろかったけど、どこか物足りないんだよな〜」というモヤモヤさえ

吹き飛ばしてくれました。



原題のサブタイトルは「Fury Road」——怒りの道ですね。 

かつてメル・ギブソンが主演を務めたマッドマックス三部作との繋がりはありません。

『スター・ウォーズ』 はさすがにシリーズを理解していないと楽しめませんが、

こちらは予備知識ゼロの状態でも安心して観られます。



あらすじをダラダラと書いても仕様がないので、

私の感想をなるべくネタバレのないよう書いてゆきます。







【宗教と政治】
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世紀末は食料や水の奪い合い。

法を浸透させるのも困難となれば、

暴力や信仰で政治をおこなうのが一番手っ取り早い。

イモータン・ジョーが束ねるシダテルも例外ではない。

どちらかといえば“統治”というよりは“支配”だけどね。


ジョーは自らを神格化させ、民衆からは英雄と同時に王や神として扱われる。

とりわけ戦闘員たち(ウォーボーイズ)からは絶対的な存在として崇められている。

ニュークスがジョーと目が合っただけで大興奮しているシーンから、

彼らの熱烈な信仰心が読み取れる。


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信仰心を原動力とするウォーボーイズたちがやってみせる儀礼の描き方がすごくおもしろい。

ひとつはジョーに向かって手の指を交差させて祈るようなポーズを取る、

これはいわゆる合掌や敬礼と同義のよう。

もうひとつは、ここぞ!という時に口に銀色のスプレーを噴射する。

初めは意味不明すぎて笑ってしまうのだが、

映画にのめり込んでゆくうちにスプレーが観客の情熱さえくすぶってくるから困る。

スプレーの儀礼の意味としては「死の覚悟」や「英霊になれ」のような感じだろうか。

口に吹きかける事から“遺言”の代用としても捉えられる。

そして最後に、これは儀礼ではないのだが彼ら全員が共通して持つ価値観の中に

「戦って死にたい」というのがある。

これは彼らが短期寿命の生物であり、戦う他に自分の価値を見出せないからである。

寿命が近いニュークスが危険を冒してでも

輸血袋を連れて戦場に行くところからも見て取れる。

仲間達もその覚悟を認めている。

戦って死んだ者はみんなから勇者として扱われるのだ。

そして、彼らは「“門”が開かれる」というような言い方をしている。

いわゆる天国や極楽浄土を示すのだろうが、

私はこれにイスラムのテロ集団が吹聴していた“迷信”と共通するものを見つけていた。

テロ組織に加わった中東の若者達は、

「イスラムのために死ねば、天国で処女の娘たちとハーレム放題」と言い聞かされてきた。

私たち日本人からすれば鼻で笑ってしまうような“口車”だが、

本人達にとってはそれこそが現実であり、唯一の拠り所だった。

自爆テロを起こしたイスラムの若者達は無垢なまま死んで行った。

そして、この映画に登場するウォーボーイズたちもまさに“無垢な存在”なのだ。

この“無垢”が短期寿命で若い姿のまま死んでゆく設定とぴったりリンクする。

ジョーの宗教・政治・支配は、若者達の無垢によって成り立っていたのだった。

 





【千の顔を持つ英雄】
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本作はジョーゼフ・キャンベル著の『千の顔を持つ英雄』をテーマにしているという。

名著であるが、私は読んだことがないので何とも言えない。

また『千の顔を持つ英雄』は他にも様々な作品に影響を与えている事でも有名。

ジョージ・ルーカスも本著の構造を『スター・ウォーズ』に取り入れたとか。

いったいどんな構造なのか、わかりやすく説明しているサイトがあったので抜粋する。


本書のテーマである英雄についてであるが、ルーカスが『スター・ウォーズ』に適用した世界の英雄伝説に共通している構造というのは、単純化すると次のような3段階になる。
(1)「セパレーション」(分離・旅立ち)
(2)「イニシエーション」(通過儀礼)
(3)「リターン」(帰還)

(http://1000ya.isis.ne.jp/0704.html


私にわかる事は、マッドマックスにこれを当てはめるのなら

本作における英雄とはジョーでもマックスでもなく、ヒュリオサなのだろう。

旅立ちとはシダテルからのセパレーション(脱出)であり

故郷の喪失は過去との決別、イニシエーション(通過儀礼)を指す。

リターン(帰還)とは、まぁそのままです。

対してマックスはこれに当てはめにくい。

彼は家族を失ったトラウマを抱えているものの、精神的に完璧なほど成熟しており

なによりシダテルは彼にとっての故郷ではない。







【マッドマックスのマニアックな見所】
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1. ジョーが滝を止めるタイミングが絶妙

冒頭、民衆に水を与えるシーン。

民衆の数と比べて水量は少ないが、水はあふれるほど保持しているのがわかる絶妙な間。

細かく見れば、このカットの“間”もラストの伏線になるわけです。




2. マックスのトラックの中での拳銃の使い方が凄い

まだ仮面(?)を外す前のマックス。

はたしてあれが正しいのかは知らないが、

拳銃を顔にくっつけて視線と共に銃口を動かす警戒心の描写がとても印象的。



3. 美術

とにかくこだわり抜いた衣装と美術に圧倒される。

『フォースの覚醒』を物足りないと感じた要因のひとつが美術だったのだが、

マッドマックスは観客の想像力を遥かにこえるイメージの豊かさがある。

そして、そのイメージのすべてが信仰心を表すようにできているのだから奥が深い。

私にとってのマッドマックスはやはり英雄と宗教の映画なのだ。







【2015年ワーストワンの映画もマッドマックス】
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日本語吹き替え:

AKIRA(踊り子)

竹内力(素人)

真壁(スイーツ)





なめとんのか